FC2ブログ

第一章 胎動編(007)

夢の中の…

サモリとともに 男たちがノイタウンへと向かった後、集会所には老人と女・子供だけが残された。

「しかし、何か おかしいとは思わないかい?」
「そうだね…、あのドヨニリバーが氾濫するほどの大雨なら、今頃は ここだって…。」
「つい この間まで カラカラの天気が続いてて 水嵩が低かったはずなのにねぇ。」
「そうそう、ノイタウンの方は そんな影響で水不足だったて言うじゃない。」
「不思議だよ…。どうも納得がいかんねぇ…。」
集会所内のあちらこちらで そんな会話が交わされていた。

「テレビもラジオも まったく入らないというのも 妙だよ。」
「うん。電話にしても 繋がらないとは、どうも変だな。」

そんな中、40歳ぐらいの主婦ワサミが青ざめた表情でポツリと喋った。
「ねぇ、なんか自然の力だけじゃなくて、違うものに脅かされているような気もしない?」
その言葉に 横にいたワサミの義父のミゾーが眉を顰めて聞き返した。
「違うもの?」
ミゾーは 既に70歳は過ぎているようだが 表情のしっかりとした老人である。

「何となく私は、昔の記憶が甦ってきてて どうも嫌な気がするの。」
そんなワサミの言葉に 突然 周りが静まり返った。
暫くの間、誰も口を開こうとはしなかったが、やがて 傍にいた別の初老男が言う。
「まさか…!? 奴らが復活したとでも…?」
すると、ずっと眉を顰めていたミゾーが 突然叫んだ。
「何を馬鹿な…! あれから既に十年以上も経っているんだ。そんなことは ありゃあせんっ!!」
大声で否定するミゾーに対し ワサミが恐々に問いかける。
「…でも お義父さん、体勢を立て直して 復活したのかも?」
「黙れ! それ以上 もう喋るなっ! わしゃ、思い出したくもないわっ!!」
ミゾーが余りにも大声で怒鳴るので ついにワサミは泣き出してしまった。

向かい側の窓際の壁にもたれて座っていたマリュウは
そんな大人たちの光景を不思議そうに眺めていた。

「マリュウのような ちっちゃな子もたくさんいるのに
 何を騒いでいるのかね… ほんとに仕方ないねぇ…。」
サテイエがマリュウの頭を撫でながら言った。
「おばあちゃん、『フッカツ』って なーに?」
「おやおや、あの人たちの話を ずっ 聞いていたんだね。」
「うん。よくわかんないけど、怖い話に聞こえたよ。」
「そうかい… 怖い話に聞こえたかい?」
「うん…。」
「『復活』というのはね、消えたものが また もとに戻るっていう意味のことだよ。」
「じゃ、悪い奴が もとに戻るの?」
サテイエは じっとマリュウの顔を見つめた。
「いいかい、マリュウ…。今から話すことを 不思議がらずに ようく お聞き。」
「うん。」
「マスリ伯父さんが亡くなる前に 願いをかけて平和な世の中になったの…。
 ここまでは さっき話したね。」
「うん。」
「その願いというのはね。
 悪い奴を もう悪いことが出来ないように消してという願いだったの。」
「へぇ~、マスリ伯父さんって 魔法使いみたいな人だったんだなぁ。」
「マスリは魔法使いなんかじゃないよ。願いをかけたんだよ。
 実際に悪い奴を消したのは アースクラスなんだから…。」

サテイエの話の中にやっと登場した『アースクラス』という言葉の響きに
マリュウは目を爛々と輝かせた。
「おばあちゃん、アースクラスって どんな人。」
「人じゃないよ。神様さ…。このアース全体を守る女神様よ。」
「ふーん… きっときれいな人なんだろうね。」
「あら、マリュウって ませたようなことをいうね。びっくりするよ。ふふふ。」
「今日みたいなタイフーンからも守ってくれないかな?アースクラス…。」
「願いをかければ やって来て 守ってくれるかも知れないね…。」
「皆で願いをかけたら守ってくれるかもね?」
そんな純粋なマリュウの言葉に サテイエは静かに頷きながら話しを続ける。

「でもね…。帝国軍と戦った誰もが アースクラスのことなんて知らないはずさ。
 あの時、帝国軍がいなくなったのは、自分たちが やっつけたんだと思っているから。
 あたしがアースクラスの話を誰かにしたとしても きっと誰も信じてくれない。
 実際に目に見えるものだけしか信じないというのが 多くの人の考えなんだよ。
 あたしは 今朝 マリュウが見た夢の話を聞いて
 アースクラスは けっして自分だけの夢の中のことじゃないと思ったの。
 マスリが亡くなった日から 何度も見続けている夢だからね。
 そして、今の平和は 間違いなくアースクラスのおかげだよ。
 でも、それは マスリの願いのおかげ…。
 あたしは 今でも そう信じている。」

確かに、そんな祖母の話は 誰が聞いても 遥か宇宙の御伽話と思われるに違いない。
しかし マリュウも、アースクラスの存在を信じて疑わなかった。

「おばあちゃん、アースクラス…また夢に出てくるかなぁ?」
「もちろんさ。きっと これからもずっと出てくるはずだよ。」
「うん! 悪い奴が『フッカツ』してきたら、絶対 やっつけてくれるよね? ねっ!」


その頃、
カフチシティ西隣のノイタウン高台に到着したセエイやサモリたちが見たものは…
溢れる土砂… 崩れる山… 流れる家… そして、溺れる人々…
まさに地獄の光景だった。

遥か宇宙の御伽話のようなアースクラス神話。
その宇宙神話が事実になる時…  その前途には まだまだ多くの試練が立ちはだかる。
セエイ/イメージ
スポンサーサイト